司会:ありがとうございました。それでは最後の発表者は、米澤隆さん、タイトルは「Glass Pavilion」です。どうぞよろしくお願いいたします。

米澤:米澤隆です。この度、Glass Architecture Competitionに出展させていただいております「Glass Pavilion」についてプレゼンテーションさせていただきます。
森の中にたたずむガラスのパビリオン。光が差し込み、風が通り抜け、木々が映り込む。森の環境と一体になりつつも、ガラスを介して少しそれを抽象化する。それらが重なり合い、ひとつの様相を形成する。ガラスのメカニズムを介した多様な環境をつくりだす建築を提案します。
ガラスが持つシンプルなメカニズム。反射と透過、あるいは屈折。太陽光の軌道上にガラスが介在することにより、その流れが少し変わる。ガラスは、少しづつ角度を変え重なり合いながら、うろこ状に並ぶ。光は、ガラスにより反射し、透過し、多様な躍動を見せる。光だけではなくて、周囲の環境が映り込んだり透けて見えたりする。ガラス面に手前のものが映り込み、奥のものが透け、像をゆがめながら周囲と一体になる。また、うろこ状のガラスを押し開けると建築内に風の流れがおこる。ガラス自体もその性質を変えてみる。例えば透明度。太陽の軌道に合わせ、ガラス一枚一枚の透明度を変化させてみる。ガラスの透明度の変化に応じて太陽光の透過率が変わり、内部の環境を調節する。ガラス1枚1枚がゆるやかに連動しつつも自立して存在している。光の透過、反射、木々の映り込み、風の通りがガラス1枚1枚に切り取られ微分され、各々の挙動を許し、その総体としての現象をつくりだす。平面は直径3 mの正円。四畳半より少し小さいくらいの身体的なスケール。高さ方向は3.5 mの壁面に1 mの屋根がちょこんと乗る。入口と屋根が木でつくられ、それ以外がうろこ状のガラスで覆われる。全てをガラスだけでつくるのではなく、ガラスのエッジを木でおさえている。

構造のお話をさせていただきます。シャボン玉は面内方向に表面張力が働くことにより成立している。それと同じようにガラス面に表面張力を働かせ、ガラス1枚1枚が自立して存在しているようなことはできないか。理論モデルを示してみます。ガラスとワイヤーとロットを用い、ワイヤーを引っ張った状態でロットを介してガラスに接合していく。それらを交互につなぎ合わせ、常にワイヤーには引張力が、ガラス面には圧縮力が働く状態をつくりだす。そうすると上から吊ることなく板ガラス1枚1枚が自立して立つ。構造理論式を示します。どれだけの引張力をかければいいか、その時のワイヤーの太さは、圧縮力と曲げに対する強度を考えたときのガラスの厚みはどれくらい必要か。理論式に基づき計算してみると、板厚が6 mmのフロート板ガラス、1.2 mm径のステンレスワイヤーを用い、290KNの力で引張力を与えると成立することになります。試しに実験として1/2のモデルを製作してみます。製作図になります。シャボン玉のようにガラスに表面張力を発生させ、ガラス1枚1枚が自立して存在する。引張力と圧縮力が交互に折り重なり、表面張力が途切れない絶妙な関係をつくりだす。ガラス1枚1枚がゆるやかに連動しつつも自立して存在する。実際に1/2モデルを製作している様子です。木で型枠をつくり、それに力をかけ、ワイヤーを一定の力で引っ張った状態をつくりだす。引張力のかかったワイヤーに、ガラスをロットを介して1枚1枚接合していく。仕組みモデルの完成した様子です。実際はこれの倍のスケールでガラスをうろこ状にし、ガラスの壁面を正円状に連ね、広がる力を円錐形の屋根で抑える。まだまだ思案中ですが、うまくクリティカルな状態で成立させられたらと考えています。

森の中にたたずむガラスのパビリオン。光がキラキラ輝き、周囲の木々が映り込む。近づいてみると、自分の姿が微妙にゆがんで映し出され、光、木々と混ざり合う。中に入っていくと、先ほどまでの世界とは少し違った世界が展開している。ガラス1枚1枚が異なった像を描き出し、それぞれが連動しつつも独自の挙動を示す。うろこの1枚を押し開けてみる。ふと風が入り込み、ガラス空間の中で淀みをつくりまた外へ吹き抜けていく。光は躍動し、風は流れと淀を生み、木々が多彩な表情を見せる。そこに人の振る舞いも重なり合わさり、バラバラに進行していたそれらが重層化されひとつの様相を形成する。それはもはや光、風、香り、音、風景といった概念ではなく統合され昇華された、得もしれない現象となって現れる。以上でプレゼンテーションを終わります。ありがとうございました。

 

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