司会:それでは早速ですがこれより、プレゼンテーションにうつります。今回の発表は、「久保秀朗さん」、「増田信吾さん 大坪克亘さん」、「米澤隆さん」の順で行っていただきます。
1組目の発表者は、久保秀朗さん。タイトルは「Sun For Two」です。どうぞよろしくお願いいたします。

久保:久保です。よろしくお願いいたします。今回のテーマは、”多様な光のあるガラス建築”ですが、一番一般的に使われている板ガラスは、通常の使い方だとただ光を通すだけです。しかし向きを変えてみると、ちょっと面白い現象が起きるということが分かりました。ガラスの小口の方向を太陽の向きに向けると、太陽の光が2つに分割される、という現象が起こります。何故このような現象が起こるかというと、丁度光ファイバーと同じような現象が起きていて、ガラスの内側で光が全反射を繰り返します。その反射の数が奇数の場合と偶数の場合で光の向きが変わってきます。その結果光が 2 方向に分解されるのです。では、いったい光の角度が変わることで、どのような可能性があるのかを考えました。もともと、太陽の光の向きを測定して、暦や時間を決めていたように、時間と太陽の光の向きというのは密接に関わっています。また、普段僕らが生活している中で、太陽の光の角度が変わることで、時間の変化を感じたり、あるいは季節の変化を感じている…ということを考えると、光が2つになるということは、2つの時間があるような、そんな空間がもしかしたら作れるかもしれない、と考えました。また、建築的側面ではどのような可能性があるのか、ということを考えたのですが、素晴らしいトップライトを持った建築というのはたくさんあるとは思いますが、実は、それは2種類しかないのではないかと思いました。1つは、パンテオンのように1方向の光を空間に落とし込むもの。もう1つは、すりガラスを使って空間全体に光を拡散させるものの2種類です。今回、ガラスによって光を2方向に分解することができたら、これらとは違う、また新しい光環境をもった建築をつくれるのではないか、という可能性を感じました。そこでスライドのような空間をスタディしました。板ガラスを重ねたトップライトと、2方向に分かれる光に対応した2つのスペースをもつ建物です。下のスペースは上から光が落ちてくるような空間で、右上のスペースは横から光が差し込んでくる空間になっており、その2つの異なった光環境を持った場所が、1つの空間の中に同時に存在する、というような建物になっています。それぞれのスペースは階段を上ることで行き来ができるようになっています。トップライトの部分は、合わせガラスの要領でガラスを重ねて、膜で接着しています。それを長辺方向に渡すことで、構造的にもたせています。ガラスの許容力度を計算すると、ガラスの厚さを100 mmぐらいにすると3 mぐらいまで伸ばすことができ、150 mmにすると6 mまで伸ばすことができるので、通常とは違った、フレームの無いガラスだけのトップライトを作れるのではないかと思います。トップライトの角度は35度にしているのですが、これはちょうど夏至の太陽高度と、冬至の太陽高度の平均値を反転した角度になっています。このような角度にすると、夏の太陽の光は、冬の太陽と同じ光に分解され、逆に冬の太陽の光は、夏の光と同じ太陽の光に分解されて、1つの空間に夏と冬が同時に存在するような、光環境が作り出せます。
様々な方向の光のデータを、比較した表を見てみると、例えば夏の12時の光において、ガラスが無い場合は下の空間にしか光があたりませんが、ガラスがあると両方の空間に光が分解されます。冬の場合だと、右上に光が偏ってしまうのですが、それが2方向に分解されます。
通常トップライトを作ると、夏場は1か所に光や熱が集中してしまい、逆に冬場は下の方まで光が降りてこないので、なかなか熱や光をとることができないという矛盾があると思うのですが、このガラスを使うと、そのような問題が解決できる可能性もあるのではないかと、思っています。1つの太陽の光が2方向に分解されて、1つは冬場と同じような光の環境になり、もう一方は夏のような日差しが入ってくる。またあるいは、朝のような横からの光を全身に浴びることができる場所と、昼間のように上から光が差しこんでくる場所がある。2つの時間帯が、あるいは2つの季節が、同時に1つの空間の中に内包されているような建築が作れるのではないか、と考えています。
展示計画ですが、人が実際に中に入れるような、3 m角のモックアップを作りたいと考えています。展示会場が南向きなので、実際に太陽の光を入れてどのような光環境ができるのか、それを観測できるようなものを作りたいと思います。模型だと光の変化の仕方がわかりづらいと思うので、ムービーを作成しました。この映像は、太陽が昇ってきた状態です。2本の光の筋が、少しずつ動いていってクロスしていくのがわかると思います。太陽が何重にも重なった後、ここからまた光が下がってくると、2本の筋が1つできます。一般的に使われている板ガラスの向きを少し変えるだけで、多様な光のガラス建築が作れるのではないかと考えています。以上で発表を終わります。

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