------東大のAGC寄付講座でガラスの研究を主にされている佐藤先生は、ガラスのどのような所が難しくも思い楽しく思われていますか。また東大で都市再生を専門で研究をされている太田先生がガラスで階段をつくられたのは、どのような魅力からガラスで階段をつくられようとしたのか教えてください。
佐藤:はい。ガラスは、わかっていても失敗するのですよね。ガラス同士が当たらないようにするために、緩衝剤をはさみ込まないといけない。あらゆる部分で金属との接触を避けないといけない。石上さんのヴェネチアでのガラス建築でもそうだけど、施工途中の現場でやはり何枚か割れました。挟むはずだったけれども、セッティングが甘くなり、現場での施工ではどうしても発生してしまう。その難しさと、常に割れる危険性を感じながら扱うっていうことをやっていると、だんだんわかるようになるというか、扱い方をだんだん知って、もっとガラスを自由に扱えていくのではないかと感じています。先ほど岩瀬さんの話しにあったように、例えばちょっとしたテストやスタディで使用する材を、扱い難いガラスでやらずに、ヤング係数の同じアルミ材を使うとか、接合するときのクランプで挟むにしても、どのくらいの厚さの樹脂で挟むといいのかとか、設置面の納まりでも、緩衝材とした床を設置するとか、ちょっとした代用の素材で実験することによって、培っていける技術が積み上げられているという風に感じてもらい、それをどんどん発展させてもらえればいいかなと思っています。そして活用しづらいガラス材をどんどん利用してほしいなぁと思うのです。今回の展示でも、半年の期間で成立させるというのは相当大変なことなので、的を得た検証で成立まで持っていく楽しさを感じてもらえたのではないかと思います。
太田:AGCスタジオで設計をしたガラスの階段でいうと、あれは揺れるから面白い。僕は揺れるのは魅力だと思っていて、吊り橋なんかにみんなが行くのは、人の重さであったり行動に対して揺れるからいくのです。そして、うまく揺れを操作できると、もっと良いと思っています。その動的な素材の表れみたいなものが設計対象に入ってくると、どのくらい変位があるかとか、揺れたときにどういう光になるかとか、きっとシュミレーションできるはずで、そこの揺れも一緒に制御できていくと、もっと面白くなるのだろうなぁと思っています。それから、今回はレオフレックスといってとても薄く、スマートフォンの表面に使うような大変薄いガラスの新素材を使っている。ずいぶん技術的には面白いテーマですが、限界もまだまだある。原寸展示にあったあれだけの大判が制作できるということは、とても重要なことですが、普通は熱で強化するガラスを薬品に浸けてガラスの両側に圧縮を与える。両側が力学的に変化して、それで強度が高くなる素材です。そうすると、強化してから穴を開けると応力が変わってしまうので小さな穴も開けられない。それが今の状態です。逆に、穴を開けてから強化すれば、またいろんな展開があるのかもしれないですけれども、利用に応じた工夫のようなものがだんだんテーマになってくる。穴を開けるのと同様に自由形状に切るのも、応力がかかってきてしまいますが、恐らく技術が進めば、好きな形に切って穴を開けそれから強化するっていうことができるというわけです。つまり、服をつくるみたいに曲げることを前提に、ガラスの構造物ができるかもしれない。その辺の可能性も研究しながら今回の岩瀬さんのアイディアを発展していくと、とても不思議な泡のような建築ができて面白いだろうと思います。今日のような場がそういうことを考え出す可能性をみつけるきっかけになるのだと思うのですが、素材と工法、設計法と製造法と、それら全てが同じまな板の上で調理されると食べたことのない新しい料理ができるような感じがしています。
------(会場)大阪大学で建築を学んでいます。本日は素晴らしいご講演をありがとうございました。先生方のお話しを聞かせていただいていると、ガラスという素材をとても愛されているなと思ったのですが、興味をもたれた理由やきっかけを教えてください。
太田:東大の内田先生も仰っていましたけど、外装材として一番性能が高く、一番丈夫なので、外壁の到達点だと思っています。かなり冷めた愛し方かもしれませんが、都市再生を専門に取り組んでいますので、ガラスを通した風景っていうものがひとつの現代的な、そして未来的なものをつくっていくことに興味をもっています。
平沼:透明性というものを追及していくことは、ある種、日本的なことだと僕は思っています。それは太田さんの言っているような透明なガラスを通じて見た近くの風景というものが、隣の家の屋根だったり、電柱だったり、樹木だったりをある種、抽象化した風景として見せてくれる。それはガラスが光を通す透明性の高い素材だからだと思っています。ガラスが光を通して、物質性を抽象化していくことにとても興味を持っています。興味をもったきっかけは、学生時代の課題で立面図を描かされる時に開口部の位置を描いていくとシンメトリーに配置していかなきゃいけないんだけど、描くとプロポーションとぶつかる。グラフィックデザインみたいな操作で立面図をつくっていくと立面を平面に置き換えたときや、その立面で決定した窓の配列だけで考えていくと、中の間仕切りにぶち当たったりしていて開口部のガラスの部分に変な間仕切りが出てきたりして駄目だ、なんてことになっていく。そんなことを永遠やっていると、内部空間のここに光を落としたいっていうのと、立面図に出てくる窓の位置、ガラスの位置がずれてくるものですから、いつかガラス造で作っていきたいみたいなことになっていまして、まずは窓という開口部の歴史を勉強していったのですね。いろいろ文献を調べていくと、町屋とか桂離宮にあるような開口部の障子文化にはまりこんでいくのです。結局、西洋の窓っていう文化は建築物があって穴をあける。僕が設計課題をやっていた時のように穴を開けるというようなバロックに代表するような窓の文化ですね。でも、日本っていうのは木造による在来工法の柱梁で囲われたところを障子で開口していくような、掃き出し窓の文化によって発達をしてきたのを知っていき、そこにガラスっていうのが障子に代わって付いていったことを知っていく。まっ、AGCさんが世界一のシェアを持つわけです。(笑) つまり大きなガラス面が存在する技術を求められていく訳です。僕はその時に、その回りに存在した柱や梁を取っ払い、構造を担うようなガラスになっていくような使い方ができる。そんなことができるのではないかと考えていくことからこの素材に期待をしたのかもしれません。
佐藤:先ほど少し話しましたけれども、こんな難しい材料はないっていうところですね。さっきお話ししたように脆性的な材料でもあるし、溶かそうと思えば1,200度くらいに加熱しないといけないわけで、素材をつくるための釜も相当な安全性をもって作らないといけないし、そういう難しい材料を扱えるようになりたい、という経緯で興味を持ちました。マッドサイエンティスト的な気持ちです。
岩瀬:私は光に対する扱いづらさが、今回の提案で一番感じたことです。ガラスってこう、感覚的には境界面として使われるので、外が明るいか、内が明るいかで全く表情が違ってきます。それって感覚的には分かるんですけど、今回のような、うねうねさせたガラスをやった時にちょっとその感覚が自分でとらえられないようなところに反射が出てきました。外の光が普段は暗いのに、サイネージが入り込んできて環境が変わったりしました。あと、東京展では自然光が半分だけ入ってくる室内環境で自分が置いたスポットと共存する形になったので、日中のあるタイミングでスポットが効くようになる。それまでは自然光が入ってくるけど、直接光が入ってこなくて間接光が入ってくるみたいな感じで非常に光の環境が変化をしたので、その時々で全然表情が違ったんですね。この時間帯は全くガラスが見えない。この時には人に見てもらいたくないなとか。うまく光が落ちない時があったり、それは私が逆に結構いいなと思った瞬間でもあるんですけど、人は一回しか来てくれないのにベストな状態を見せたいという気持ちもあったりして、そういう意味で本当に不思議で、よくわからないけど面白い部分に興味を持っています。 |